学年協議会(学年の学級代表委員会)で今月の目標が決まりました。学年協議会の代表も副代表もスムーズに議事を進行してくれました。あとは書記の子に学年協議会便りを書いてもらい、それを印刷して学年全体に配付することになります。書記の子に用紙を渡して「明日の朝までに書いてきてね」と伝えます。書記の子も元気に「はい、わかりました」と応えます。ひと安心とその日の委員会を終わります。
次の日の朝、いつものとおりに朝学活を終え、授業をしていて、あなたはふと気づきます。そういえば、学年協便りをあの子がもって来てない……。昼休みに書記の探してみますが、見当たりません。体調を崩して欠席でもしてるんだろうか……。ちょっと気になりながらも、そのまま午後の授業の入ります。ばたばたしているうちに放課後になってしまい、結局その日は書記の子に会えずじまいでした。
更に次の日、休み時間に書記の子を見かけます。「学年協便り、どうなってる?」と訊いてみると、「すみません、まだできてません……」とのこと。「じゃあ、放課後残ってやってね。先生はちょっと会議かあるからつけないけど、できたら職員室の先生の机の上に置いておいて」こう言って、あなたはその子と笑顔で約束します。
ところが放課後、打ち合わせを終えて職員室に戻ってくると、あるはずの学年協便りがありません。もう授業が終わって一時間も経っているというのに……。もうできていてもおかしくないのに……。教室に行ってみると、書記の子はお友達とおしゃべりに花を咲かせています。「学年協便りは?」と尋くと「まだできてない」とのこと。堪忍袋の緒が切れたあにたは、「残って書け!」とつきっきりで指導しながら、お便り一枚を完成させることになります。
さて、この事案、いったいどれだけの時間を無駄に過ごしたでしょうか。
私はこういうとき、書記の子の目の前で自分の手帳を開いてメモをします。明日の朝一番の仕事として、この書記の子に学年協便りについて打ち合わせることを意味するメモです。「(朝)学年協便り・Aさん」のような書き方です。「じゃあ、明日の朝ね」とひと言伝えて終わりです。
先の事案との違いがおわかりでしょうか。
まず、書記のAさんは、先生がメモまで取っているのですからこの仕事をなめなくなります。「ああ、いいかげんにはできないのだな」と感じてくれます。また、もしもAさんが次の日の朝に持ってこなかったとしても、朝一番の仕事として「To Doリスト」に書いてあるのですから、朝学活が終わった時点ですぐにAさんに会いに行くことになります。要するに、自分自身が忘れているということがなく、朝の段階で状況を把握してしまえるのです。その場で仕事の段取りをつけてしまうことができます。更に言えば、教師が日常的にこうした仕事振りをしていること自体が、子どもたちに「この先生との約束は破れない」という気にさせ、子どもたちが仕事をさぼったり忘れたりということ自体がなくなっていくのです。
別の例を考えてみましょう。ある子が「先生、相談があるのですが……」と言ってきたとします。どころがいまはどうしてもはずせない用事があって、その子に対応することができません。「ごめんね。いまちょっとはずせないんだ。明日の昼休みでもいいかな?必ず時間をつくるから」と言って、その場をしのぎます。さて、次の日の昼休み、もしもあなたがこの子との約束を忘れたらどうなるでしょうか。教師にとってたくさんの子どもたちのなか一人とした小さな約束ですが、その子にとっては先生と交わした大きな約束です。もしも教師がこの約束を忘れていたとしたら、教師は「嘘つき」になり、この子は大きなショックを受けるでしょう。実はこういうときにも、私はその子の前で手帳を開いて、「(昼)Bさん・相談室」と書き記します。
一般に「備忘録」というと、授業の週案や仕事の「To Doリスト」のことだと考えられています。もちろんそれらも大切ですが、実は授業や仕事を忘れるということはまずありません。教師が失念してしまうことで後に大事になったり、思わぬ時間を奪われることになるのは、こうした小さな約束や子どもに徹底したい指導、或いは保護者へのちょっとした連絡など、いわば「凡事」なのです。教師が信用を得るにも、教師が時間を奪われない仕事の仕方をするにも、実は根っこは同じ、「凡事徹底」です。小さな約束を蔑ろにしない日常を送ることで、実は子どもや保護者との信頼関係が少しずつ高まっていき、それに伴って仕事も充実してくるのです。
もちろん、「目の前で手帳にメモされるなんて……」と四月当初には抵抗を抱かれることもあります。しかし、それは最初だけのことです。しかも、「ごめんな、先生忘れっぽいから、こうしてメモ取っとかなきゃ忘れちゃうんだ」と笑顔で言えば良いだけのことです。
小さなことほど、「備忘の徹底」が仕事をスムーズに進行させるのです。人間関係さえスムーズに展開させるのです。この原理を侮ってはなりません。子どもや保護者に対する例ばかりを挙げましたが、実は私は同僚や管理職との打ち合わせでも同じ手法を使います。管理職が忙しさを理由に約束の時間を破った場合には、その後はこちらの都合に合わせることを要求することにしています。管理職にもなめられなくなくなることを保障します(笑)。まあ、私をなめてかかる管理職はもともとあまりいませんけれど……(笑)