まだまだ一般的には知られていませんが、いわゆる「説明的文章教材」には、三つの下位項目があります。「説明文」「記録文」「論説文」の三つです。一般には、「説明的文章教材」のすべてをまとめて「説明文」と呼ばれることが多いようですが、本来、「説明文」とは「説明的文章教材」の要素である一つの文種の呼び名に過ぎません。「文学的文章教材」が物語・小説・詩・短歌・俳句・随筆等々の文種に分かれるように、「説明的文章教材」もまた「説明文」「記録文」「論説文」に分かれるのです。
おおまかにいえば、次のような違いがあります。
【説明文】 ある題材に関する知識をもつ筆者が、知識をもたない読者に対して説明する説明的文章。
【記録文】 ある事件や歴史的な出来事について、時系列に並べて説明する説明的文章。
【論説文】 筆者が自らの意見を主張するために、具体例を挙げながら論理的に説得する説明的文章。
小中学校の説明的文章教材で最も多いのは確かに「説明文」です。おそらく、「説明的文章教材」をまとめて一般に「説明文」と呼ばれているのもそのせいなのでしょう。しかし、小学校高学年から中学校にかけては、「論説文」や「記録文」が一定程度の割合で載っています。高学年の説明的文章教材で先生方から「この説明文、難しいな」という感想が聞こえてくるものは、だいたいが「論説文」です。また、中学校の説明的文章教材は「説明文」よりも「論説文」のほうが多くなります。「記録文」は、小学校ではいわゆる「伝記」が、中学校では歴史の謎が解き明かされるまでの経緯を解説したり、ある人物が苦労をしながら某かの成功をおさめるまでを記録したりした文章がよく載せられています。
「文学的文章教材」の授業において、物語には物語の読み取るべきことがあり詩には詩の読み取るべきことがあるように、「説明的文章教材」においても、「説明文」と「記録文」と「論説文」とではそれぞれ読み取るべきことが異なります。その意味で、この〈文種意識〉は、授業における教師の心構えとしてとても大切になります。
これもおおまかにいえば、次のような違いがあります。
【説明文】 内容的には筆者が説明している〈情報〉を過不足なく捉え、形式的には(表現の仕方としては)いかに素人にもわかりやすく説明しているかを捉える。
【記録文】 内容的には筆者が解説している出来事を〈時系列〉で捉え、形式的には出来事の転換点(成功のきっかけや理由など)をどのように描いているかを捉える。
【論説文】 内容的には筆者の〈主張〉を捉え、形式的にはどのような論理(筋道)でその主張に至っているかという主張と具体例の関係を捉える。
文種の違いは、筆者がその文章を書いた〈目的〉の違いでもあります。新指導要領では〈目的〉に応じて読んだり書いたりすることが求められているわけですから、説明的文章を読むときに筆者の〈目的〉を捉えることは、基礎的な指導として大変有効といえるでしょう。
さて、「連続型テキスト」と「非連続型テキスト」との関連指導について、一見無関係とも思われる「説明的文章教材」の下位項目である文種について、かなりの紙幅を割いて説明してきました。
「連続型」「非連続型」というテキストの分類は、いわゆる「PISA型読解力」の流行とともに提示された、文字情報によるテキスト(=連続型テキスト)と図表やグラフを中心とした視覚的なテキスト(=非連続型テキスト)とを表します。現行指導要領は「PISA型読解力」の影響を色濃く受けていますから、「連続型テキスト」と「非連続型テキスト」との関連指導が、「言語活動の充実」の観点としてもかなり大きく強調されています。しかし、「非連続型テキスト」から〈情報〉を取り出したり解釈したり信憑性を評価したりといった読解力は、基本的には国語科よりも社会科や理科、数学科の仕事といえます。では、国語科ではどんな学習事項を担うのかといえば、おそらく「説明的文章教材」の授業において文章内容を視覚化する学力を形成すること、となるでしょう。具体的には、その文章にふさわしい視覚資料を見つけてわかりやすく書き直したり、文章中の情報を図表やグラフにして視覚化したり、本文内容を読み取って文図や文章構成図にしたりといった作業が中心になります。
私は先に、「説明的文章教材」の下位項目として、「説明文」「記録文」「論説文」の三つの文種があると書きました。この三つの文種を意識することが教師の授業づくりにとって大切であるとも書きました。この文種意識は「非連続型テキスト」との関連指導においても大きくその効力を発揮します。
第一に「説明文」の場合。これは筆者が読者にとって未知の〈情報〉を伝えようとしているわけですから、題材に関する〈情報〉そのものを図示することになります。例えば、かつて「宿替えの名人『ヤドカリ』」という、ヤドカリの形態や生態、飼い方などを解説した「説明文」が教科書に載っていたことがありますが、これならば題材であるヤドカリの形態を読み取って図示したり、ヤドカリの生態を場合分けして図示したり、飼い方をイラスト入りで注意事項とともに図示したりといった作業になるわけです。規模としてはノート一頁にまとめるのが適しています。
第二に「記録文」の場合。これはある出来事の流れを時系列に従って解説しているわけですから、基本的には年表型でまとめることが適しています。例えば、「田中正造」のような伝記ならば、本文に掲載されている出来事を年表型に整理し、重要な項目だけは赤で記述する、というような学習活動になります。また、かつての「幻の錦」のように二つの国で起こったことがそれぞれに語られていき、最後にそれがつながって謎が明らかになるといった記録文であれば、二つの国で起こったことをそれぞれ年表に書きながら、最後にその年表が融合するというような図示が必要になるわけです。これもノート一頁がふさわしい規模です。
第三に「論説文」の場合。これは筆者が自らの主張を述べるために具体例を施しながら論理的に解説しようとする文章ですから、筆者がどういった論理で主張に至っているかということを図示することになります。左の図のような文章構成図を全体で確認した上で、基本的にはこの形に添ってそれぞれの大段落について、本文中のキーワードやキーセンテンスから重要事項を抽出した文図を描かせるのが適しています。よく文図を描かせると絵の上手な、カラフルなものが評価されがちなのですが、国語では絵の上手さよりも論理展開が捉えられているかに評価基準が置かれなければなりません。こうした文図の規模はノート見開き二頁が適しています。
同じように「説明的文章教材」から本文情報を抽出して視覚化するにしても、文種に応じた視覚化するのにふさわしいまとめ方、図示の仕方があるのです。「PISA型読解力」の流行とともに、視覚化が授業手法として一つの流行になっていますが、それがなぜ必要なのかまでよく考えて取り組む必要があるでしょう。