学校の先生もチームで仕事をする時代になりました。
確かに担任学級は自分で責任をもたなければなりませんが、その責任は自分だけが負っているわけではありません。あなたになにかミスがあって保護者からクレームが来た……なんてことがあれば、学年主任の先生や教頭先生、校長先生が一緒に謝罪してくれます。あなたの学級のやんちゃ系の子や特別な支援を要する子の対応は、学年の先生や生徒指導の先生、保健室の先生などが緻密な連絡をとりながら進めて行かないとうまくはいきません。一人で抱えるのではなく、みんなで取り組む。そういう時代になったのです。逆に言えば、多くの若い教師の失敗事例を見ていると、一人でできると思うから失敗するのだという側面があります。
さて、とは言うものの、職員室にはどうしても近寄りがたい先生とか、どうしても苦手な先生、好きになれない先生というはいるものです。人間ですからそれは致し方ない部分もあります。でも、それをそのまま放っておいて、いつまでたっても近寄りがたい、いつまでたっても苦手、いつまでたっても嫌いというのでは、もしかしたら大事な成長の機会を逃しているのかもしれません。世の中には、近寄りがたいと思っていた先生が付き合ってみると意外にも上に厚い先生だったとか、苦手だなあと思っていた先生と意外な共通の趣味があったとか、嫌いだなと感じていた先生がちゃんと付き合ってみると実はとてもいい人だったとか、そんなことはいっぱいあるのです。
吉川英治に「我以外皆我師」という言葉がありますが、若い時代にはこの心持ちでいるのが最も良い在り方なのかもしれません。
極端に言えば、反面教師も教師です。やってはいけないことを学ばせてくれる良い教師なのかもしれません。反面教師から学ぶにしても、その教師と人間関係があってその人がどういうつもりでそんなことをしているのかが知れる場合と、その人と付き合いが一切なくてその人の行動だけ見て自分の解釈だけで学びにするのとでは、学びの質が大きく変わるはずです。どんな人でも人間関係があることは自分にとってプラスになります。
私はセミナーのQ&Aコーナーなどで、若い教師に先輩教師との人間関係がうまくいっていない旨の質問を受けたときには、必ずその先輩教師に〈頼ってみること〉〈一緒に小さな仕事をすること〉の二つを勧めています。
「いまこんなことで悩んでいるんですけど、何か良い方法はないでしょうか」とか、「いまこういうことをしたいんですけど、なにか良い実践はありませんか」とか、職員室の四方山話のなかで問いかけてみるのです。それに対してバッサリと「ない!」とか「知らない!」という人はいないはずです。
そして、できれば先輩教師のその助言をちょっとだけ取り入れてみるのです。先輩教師の言うとおりにすべてを取り入れる必要はありません。発想の一部を取り入れるとか、ちょっと自分なりに工夫して取り入れてみるとか、そういう取り組みをしてみるのです。それもできるだけ早く。更にはその教師に、「先生に教えてもらったことをこんなふうに取り入れてみたらうまくいきました」とか「先生の実践をそのままは無理だったので、こんなふうにちょっとだけ取り入れてみたらとっても楽しかったです」などと報告してみるのです。その先輩教師との関係はみるみるうちに改善されるはずです。
まず、何といっても会話の機会が劇的に増えるはずです。一緒に笑う機会も増えるはずです。そして何より、その先輩教師はまず間違いなくあなたに助言してくれたりフォローしてくれたりする人に変わるはずです。若い人に頼りにされて意気に感じない人というのはまずいません。これは日本人の特徴といっても良いくらい一般的なことです。
もう一つは、一緒に小さな仕事をしてみることです。ほんとうに小さな仕事でいいのです。道徳の指導案を一つ一緒につくってみる。成績の点検活動を一緒にやってみる。朝の登校指導を一緒に担当してみる。そんなことで構いません。意外な人生観をもっているとか、意外にも効率的に仕事をする術をもっているとか、朝の子どもたちへの声かけのあり方にその人の人間味が出ているとか、なにかしら良いところを発見できるものです。
そしてそれを学ぶのです。そうしたものの見方や効率的な仕事のスキルや滲み出る人間味というものは、自分自身に取り入れられる可能性があるはずです。それは間近いなく、自分の成長につながるはずです。
しかもここが大事なのですが、あなたはそういう意識でその先輩教師を観察することになっていくはずです。その先輩教師に興味をもつことになるはずなのです。そうすると、その人生観や効率性や人間味が日常のさまざまな場面で発揮されていることに気づくはずなのです。もうこうなると、その先輩教師は既に近寄りがたい人でも苦手な人でも好きでない人でもなくなっているはずなのです。
大人社会、職場社会というのは、学生時代とは違って人間関係先にありきではないのです。仲が良いから一緒に仕事ができるのではありません。一緒に仕事をしているうちに、あくまでも仕事を通じて仲良くなるのです。この順番を間違えてはなりません。